3 底本を選ぶ
【旧漢字、旧かなづかいの書き換え】
日本語の表記は、戦後、大きくあらためられました。
それまでは複雑な形の漢字がたくさん使われてきましたが、新たに一部の漢字の字形を簡単なものに変え、使い方にも制限を加えて、わかりやすい表現が目指されたのです。かなの使い方も、それまでの旧かなづかいから、より実際の発音に近づけた現代かなづかいにあらためられました。
以来、教育は新しい方針によって進められ、法令、公用文、新聞、雑誌などもこれに沿って書き表されてきました。その結果、旧漢字、旧かなづかいの文章は、私たちの多くにとって読みにくいものとなっています。
繰り返し指摘したように、著作権法は作者の了解なしに表現をあらためてはならないと定めています。ところが日本語表記の改革によって生じた現実は、「読めなければ意味がない」という切実な要請を、この原則に突きつけたのです。
著作権法には、この対立のあいだで私たちがバランスをとる道が用意されています。同一性保持権の条項には例外規定が設けられており、「やむを得ないと認められる改変」については許すとされているのです。
読めるものにするために、漢字とかなづかいを最小限変えることは、著作権侵害にはあたりません。
(青空工作員マニュアル、version 0.9、1997/12/2)
であるなら、旧表記の底本しか入手できないものに限っては、青空文庫における作業においても本文の書き換えを認めようと設けたのが、この指針でした。