順風耳の八五郎は、相變らず毎日一つくらゐづつは、江戸中から
その中には隨分
「聽いたでせうね、親分。あの話を」
格子を足で開けると、彌造を二つ拵へたまゝ火鉢の向うに坐つて、こんな突飛なことを言ふ八五郎でした。
「聽いたとも、お前が横町の荒物屋のお光坊を
錢形平次は相變らずの調子です。
「へツ、
「宜い氣なものだ」
「あつしの方から御免を
「お前は長生するよ」
「それにお光坊は少し浮氣つぽくて、附き合ひ切れませんよ」
「へエ、あの
「この間まで佐久間町の丸屋の若主人と何んとか言はれて居ましたが、近頃は柳原の轟の三次と人目につかないところばかし選つて會ひ度がつて居るやうで」
「大層探索が屆くんだね、それが今日持つて來た話の種か」
「そんな下らない話ぢやありませんよ。親分が妙なところへ誘ひ込むから、ツイ話が
「そいつは大層惡かつたね、――ところでお前が持込んで來たのは、何處の新造を口説いた話なんだ」
「又新造ですかえ、――今日は、そんな氣樂な話ぢやありません。江戸の眞ん中に
「江戸の眞ん中に狼?
「嘘や拵へごとぢやありません。
「――尤も町内の豐駒姐さんのところへ行つて、變な遠吠の稽古をして居る狼連なら、八五郎を始め五人や七人はあるだらうが」
「そんな氣樂な話ぢやありません。現にその豐駒師匠が聖堂裏の暗がりで、凄い山犬に追はれて、命
「若い女の一人歩きを、
錢形平次はこのニユースをまるつきり相手にしません。恐らく何處かの野良犬が、この界隈で餌をあさつて居るか、街の
「豐駒の師匠なんか現に狼の姿を見たと言つて居ますよ」
「そいつは何時のことだ」
「一昨日の晩の
「月はなかつた筈だな、四月の二十三日だ。その上あの邊には常夜燈も自身番の行燈もない、――狼は
平次はそんな愚にもつかぬ些事にも、一應は理詰に考へてやりました。
「でも、狼に吠え付かれたとしたら?」
「狼だか犬だかわかつたものぢやない、――日頃狼連を惱まして居るから、多分その
「そんなもんですかね」
八五郎は正に言ひ負かされて了ひました。
「當り前だ。狼といふものは、猛獸ではあるが、恐ろしく臆病で、滅多に人里に出る
平次はもう一つこの流言
だが、この
「さア大變だ、親分」
八五郎は
「相變らず騷々しい野郎ぢやないか。この間の狼が新造にでも化けたといふのか」
泰然たる平次、狼汁をして喰ひさうな顏をして居るのへ、
「その狼が新造を喰ひ殺したんですよ。それも錢形のお膝元だ」
八五郎は
「何んだと」
平次も思はず立ち上がりました。
「親分も御存じの鍛冶町の酒屋で、
「狼が鍛冶町の丁子湯から柳原土手まで、娘を誘ひ出したのか」
「そんな事までわかりやしませんよ。兎も角、見付けた時のお絹坊の死骸といふのは大變だ。
「そいつは見なきやわかるまい」
平次は大急ぎで支度をすると、八五郎を案内に、柳原土手に飛びました。その頃は辻斬と
その中へ八方から集まる彌次馬の大群。
「え、寄るな/\、見世物ぢやねえ」
それを掻き分けて、とある柳の下に近づくと、土地の下つ引が二、三人、町役人と共に、お絹の死骸を見護り、丁度その時驅け付けたらしい、升屋の金兵衞は、娘の死骸のあまりにも凄まじい變貌に驚いて、氣拔けがしたやうに、たゞ
「ウン、これはひどい」
たつた一と眼で錢形平次も立ち
それは實に凄慘そのものだつたのです。少し
その半面が
「八、この狼は牙が四本もあるぢやないか」
娘の喉笛に突つ立てて、無殘にも掻き裂いた
「上下に二本づつなら四本ぢやありませんか」
八五郎の
「それにしちや行儀が良過ぎるぜ、――まア宜いや、どうせ江戸の眞ん中へ出て來る獸だもの、素直な出來ぢやゐめえ」
平次はさり氣なく言つたものの、何にか割りきれない心持で調べを續けて居ります。
「ところで、その狼は何處へ潜り込んだんでせう」
「狼狩は追つてのことにして、お絹がどんな都合で
「狼に追ひ込まれたとしたら?」
「若くてハチ切れさうな娘が、默つて宵の町中を狼に追ひ込まれるだらうか。キヤツとも言はずに」
「へエ?」
「お前は念のためにお絹の身持を洗つてくれ。飛んでもねえ狼が正體を現はさないものでもあるめえ」
「さうでせうか」
八五郎は不承々々に活動を開始しました。いや、活動を開始する迄もなく、お絹の身持は土地者の八五郎にはよく分つて居たのです。
お絹の親の金兵衞が、堅いのと働きのあるのを見込んで、御臺所町の下總屋喜太郎のところへ嫁入させることに、ほゞ話をきめましたが、喜太郎は
綺麗で愛嬌があつて、少し浮氣つぽくさへあつた、神田で評判の色娘お絹が、この三十歳の地味な男を、默つて自分の
「親分、調べては見ましたが、轟の三次はあの晩、町内の衆と一緒に成田へお詣りに行つて、殊勝らしくお籠りなんかして居ますよ」
八五郎はその日の夕刻、平次の家へ第一回の報告を持つて來ました。
「
「下總屋は主人の喜太郎の外に、
「若い娘の言ふことは何んでも信用するのが八五郎の癖だ」
「それからこれは狼の話とは別ですがね、お絹は近頃轟の三次に愛想を盡かして、
八五郎の報告には、思ひも寄らぬ新しい面があります。
「その勇三は、昨夜どうした?」
「それがよくわからないから不思議ぢやありませんか、當人は生暖かくて氣持が良いから、兩國のあたりをブラブラ歩いて居たと言ひますがね」
「そいつをもう一度念入りに調べてくれ」
「へエ」
八五郎はもう一度飛び出しましたが、一と晩奔走して、それ以上に大した手掛りを掴んだわけではありません。
その間に顏の良い御用聞で、入舟町の佐太郎といふのが、丸屋の勇三を擧げてしまひました。あの晩お絹をおびき出して、柳原の上手まで伴れ出し、其處で殺したに相違ないと言ふのですが、困つたことには勇三にはお絹を殺すほどの動機がなく、その上お絹の喉笛を噛み切つたのは、
事件は斯うして
「さア大變」
「止さないか八。お前が大變を持込む度に、俺の壽命は三年くらゐづつ
平次は大して驚く樣子もなくニヤニヤし乍ら、心細い植木の世話を燒いて居りました。
「すると、一と月に九十年も壽命が縮むわけですね。親分は恐ろしく長生きで――」
「ふざけちやいけない、何が一體大變なんだ」
「お絹を噛み殺した、狼の正體がわかりましたよ」
「誰だい、そいつは?」
「餘つ程親分にさう言はずに、擧げてしまはうかと思ひましたが、困つたことに縛つたところで送り込む場所がない」
「天狗か幽靈と言つたやうなものか」
「犬ですよ、親分」
「犬?」
「狼より凄い奴だ、牛ほどでつかい、――犬は犬でも、
八五郎の形容は途方もないものでした。
「そんな犬が江戸に居るのか」
「冬から江戸中に熊の
「熊の皮の胴服かなんかを着て、大きな犬をつれた」
「あの男ですよ。加賀の白山から出て來た伍助といふ男で、熊の
八五郎の報告は
「そいつは耳寄りだが、お絹の死骸は喉笛を喰ひ破られただけで、犬に喰ひ殺された樣子はなかつたぜ」
「犬は血を吸つたんですよ、親分。あんな魔物は何をやるかわかりやしません。犬畜生だつて、若くて綺麗な娘の血を吸ひ度くなるだらうぢやありませんか」
八五郎の論理はしどろもどろですが、兎にも角にも、そんな事も考へられないではありません。
四つ目に住んで居た熊の膽賣りの伍助は、その日の夕刻、商賣から歸つたところを、八五郎の十手で召捕られました。この捕物に對して平次はひどく氣の進まない樣子でしたが、八五郎の確信に強引に引摺られたのか、それとも外に思ふことがあつたのか、
繩を打たれた伍助は、見るも奇怪な
番所では口を割らず、八丁堀に引いて行つて、精一杯責めて見ましたが、あの晩は早歸りをして、家で一杯やつたといふ外には、何んの手掛りも與へません。八軒長屋の合長屋の衆に訊いて見ると、宵から居たやうでもあり、居ないやうでもありといふ不揃ひな證言で、一向に取留めもなく、半生を白山の山の中に暮らして、日頃灯といふものを點けない伍助の生活では、近所の衆も確としたことも言へなかつたのです。
その上困つたことに、伍助の同居して居る犬――赤と呼ばれる猛犬が伍助が縛られた時綱を斷つて逃げ出し、それつきり行方不明になつた事です。これも伍助に問ひ
「畜生のことだ、何處へ行つたか、おらにわかるものか」
と一向に手に了へないのです。
こんな日が幾日か續いた後で五月になつてからある日の朝、八五郎の三度目の大變が春の突風の樣に平次の住居を襲つたのです。
「た、大變」
「八、頼むから止してくれよ。今度は
「そんな氣のきいた話ぢやありません。昨夜御臺所町の下總屋のお光が行方不知になり、
「行かう、八」
錢形平次も、斯んなに眞劍になつたことはありません。江戸の眞ん中で、若い娘が續け樣に二人まで、猛犬に喉笛を噛み破られて死ぬといふことは、まさに前代未聞の大きい
お茶の水の崖の上は、此方も向う側も一パイの人出でした。それを人垣で隱すやうに、お光の
「これは又ひどい」
さすがに息を呑みました。十八といふにしては、すつかり女に成りきつたお光の肉體は明るい朝の陽を浴びて淺ましいほどまざ/\と
お絹よりはほつそりして居ますが、蒼味を帶びた眞珠色の皮膚、凝脂が銀のやうに光つて、その上を血潮の網の目で
もう一つお絹と同じやうに、下半身は淺ましくも
「御苦勞樣で、親分」
その驚きの前へ、丁寧に小腰を屈めたのは三十そこ/\の青黒い顏をした一寸良い男。勤儉力行で評判になつた、下總屋の喜太郎であることは、錢形平次もよく知つて居ります。
「飛んだことだつたね、――昨夜お光は何處へ行つたんだ」
「町内の櫻湯へ參りました、――へエ、たつた一人で、お隣のお神さんでも
喜太郎の説明は行屆きます。この男の堅實さと、拔目のない生活樣式を、平次は片言
「お光に縁談でもあつたのか」
「へエ、ないことも御座いませんが」
「相手は」
「最初から申さなければわかりませんが、お光が二年前に
「?」
「お光は派手好きで、私のやうな
喜太郎の話は、靜かで整然として、極めて事務的ですが、その話氣の底に、一脈の哀愁の流れて居ることは
「――で、去年の暮あたりから、私の方から打明けて、お互に一緒になるといふ話は、一應打切ることにいたしました。お光はお光で氣に入つたところに嫁入し、私は私で、似合ひの働き者を探して、
「で、その後お光の氣に入つた男でも見付かつたのか」
「私にはよくわかりません、――その事だけはお光も私に打明けてくれませんが、何んでも佐久間町の丸屋の勇三さんと
喜太郎の話は次第に具體的になつて行きます。
「もう一つ訊いて置き度いが、昨夜お光が湯へ行つた後、お前は何處で何をして居た」
「物置で
「お前は一と
平次のやうな
「
「それはどんな人達だ」
「飛脚、人足、駕籠屋――などで、毎日江戸中を歩いて居る商人などもよく參ります」
「熊の
「へエ、あの怖い犬をつれて、よく參りました。お光はまた若い女の癖に犬が好きで、よくあの犬とふざけて居りましたが――」
平次には次第に解決の窓が開けて行く樣子です。
下總屋の喜太郎の話は續きました。その荒筋といふのは、――櫻湯へ行つたお光の歸りが遲いので、小僧に留守を頼んで迎へに行つたが、櫻湯で訊くと、お光さんは四半刻(三十分)も前に歸つたといふので、それから急に不安になり、近所の衆の助勢を求めて、大がかりな搜査を始め――中にはお絹の例を考へて、柳原土手まで行つたのもあつたが、その晩は到頭わからず、翌る日の朝になつて、お茶の水の
「お光さんの歸りが遲いといつて、主人は大層な心配でしたよ。一寸探して來るからと、店を出て行つたのは、半刻とも經たない時分だつた思ひます。それからまた四半刻ばかりすると飛んで歸つて、お光さんが見えないから間違ひがあつたかも知れないと、着換へなんかして近所の衆を頼んで多勢で出かけましたが――」
「着換へ?」
「仕事着のまゝで行つたので、あんまりひどいからと、それを脱いで新しい
それはありさうなことでした。念のため裏の流し元へ行つて見ると、――二枚の着物――繼だらけの仕事着と小綺麗な
櫻湯へ行つて訊いて見ると、此處でも喜太郎の言つたことに間違ひはなく、お光は一刻ほどで湯から上がつて歸ると、それから四半刻ほど經つてから喜太郎が男湯の方から覗いて、番臺の女房にお光の事を
「この上は親分」
八五郎は事件が重大な
「熊の膽賣りの伍助はどうして居るんだ」
平次は妙なところへ立ち
「四つ目の八軒長屋に居ますよ、一度擧げては見たが、お絹やお光を殺したことには、何んの掛り合ひもないとわかつたので」
「だから、無暗に人を縛るんぢやないよ」
平次は小言をいひ乍らも、この山の男に一度逢つて見る氣になりました。
本所の四つ目まで、わざ/\行つて見ると、幸ひに熊の膽賣りの伍助は、汚ない長屋の奧に、自分の
「あ、錢形の親分さん。親分のお言葉があつたさうでお蔭で無事に戻りましただよ。
伍助はたつた一と間の恐ろしく汚い家の中に、平次と八五郎を迎へました。五月の生温かい
「お前に訊き度いのは、この
平次の問ひは唐突で飛躍的でした。
「飛んでもない。お役所でもくり返し申しましたが、赤犬は恐ろしく行儀の良い犬で三度々々の食物だつて、私が聲を掛けなきや決して喰ひませんよ」
「本當かい」
「御覽下さい、丁度晝分だ。この子がどんなに腹が減つても、お行儀だけはきちんと守るところをお目にかけませう」
伍助はさう言ひ乍ら、赤犬の食事を用意して、土間の赤犬の前に運び、散々ぢらした上で、手嚴しいお預けを喰はせましたが、よく訓練された犬は、ひどい空腹に惱んで居る癖に、鼻の先に
「ね親分、こんなお行儀の良い野郎は、人間にだつて滅多にありやしませんよ。こんな馴れた犬が、人の喉笛などに喰ひ付いても宜いものでせうか」
さう言はれると、まさに一言もありません。
「驚きましたね親分。丸屋の勇三でなく、伍助の
八五郎が相變らず途方もない事を言ふのでした。
「若い娘二人喉笛を噛み切られて死んで居るんだ。犬でなきや人間の
「娘の喉笛に噛みつくなんて、どんな野郎でせう」
「鐵のやうな
「昨夜お光が櫻湯へ行く前に、ちよいと下總屋を覗いたことまでわかつて居ますが、それから松永町の
「その本人は何處に居るんだ」
「入舟町の佐太郎親分が擧げて、昌平橋の辻番に預けてありますよ」
「行つて見よう」
平次は四つ目から直ぐ昌平橋へ引返しました。其處には良い男のやくざ者
「三次、正直に言つてくれ。お光とお前は何にか約束でもして居たのか」
「へエ、親分にさう正面から訊かれると、返事も出來ませんが、まア手つ取り早く言へばそんな事にもなるでせうよ」
「それはどういふわけだ」
「最初あつしと、鍛冶町の升屋のお絹と良い仲で――のろけるわけぢやございませんが、當人も世間もさう思つて居りましたが、この間中からお絹の
「下總屋の喜太郎はそれを何んとも思つては居なかつたのか」
「
轟の三次の話は思ひの外筋が通ります。
「お前は昨夜下總屋を覗いたさうぢやないか」
「宵のうちにちよいと覗きましたが、喜太郎が面白くない顏をして居るので、プイと飛び出し、松永町の
「それで、又下總屋へ引返したのはどういふわけだ」
「どうも氣になつてならなかつたんで――お光はこの間から勝れない顏をして、どうかしたら、私は殺されるかも知れない、升屋のお絹さんのやうに――なんて言つて居ましたよ」
「それつきりか」
「へエ、それつきりで」
このお光を襲つた
「お光はもう少し何にか言つた筈だと思ふが――」
平次はもう一歩突つ込んで見ましたが、
「お光は二、三日前から妙に沈んで居ました。押して訊くと――私は飛んでもない事をしてしまつた――本當に取り返しのつかない事を、――私もその
轟の三次の言葉はなか/\重大です。
「八、
「何處です。親分」
八五郎は千疋狼の退治にでも向うつもりらしく、手拭などを出して、キリキリと
「下總屋だ、――裏から入るのだ」
平次は下つ引を二三人狩り出すと、それを下總屋の表口に張らせ、自分と八五郎は裏木戸から――物置へ喜太郎が
「あ、錢形の親分」
喜太郎は何うするでもなく物置の中でウロウロして居た樣子です。
「少し物を搜すよ。八、お前は外で見張つて居てくれ」
平次は喜太郎を押し退けるやうに、物置の中へ入ると、其處に積んだ藁の山の中を調べ始めたのです。
が、其處には何んにもありません。眼を
平次はがつかりして顏を擧げました。と、その眼と喜太郎の眼が、ハタと宙に逢つたのです。何といふ凄まじい眼でせう、憎惡と疑惑と恐怖に滿ちた眼――この人間惡のエツセンスのやうな眼を、平次は今までも何べんか見て居ります。
ハツとしてその視線を追つて行くと藁束の上に無造作に置かれた、その藁細工の熊手に落ちて居るではありませんか。取上げて見ると、四本の鐵の齒は、長い間藁を
その上、熊手の
「八、氣をつけろ」
平次の激しい聲にハツとして氣付いた時は、喜太郎は手慣れた
「野郎、御用だぞツ」
二人の爭ひは短いが、激しいものでした。平次の助力で、どうにかかうにか、喜太郎を縛つた時、喜太郎の唇からはクラクラと血潮の絲、この兇惡無殘な殺人鬼は、觀念して自分の舌を噛み切つてしまつたのです。
× × ×
事件落着の後平次の繪解きは簡單でした。
「喜太郎は恐しく執念深い男だ。お光を諦らめたといつたのは嘘、どうかしてお光の機嫌を取らうと、お光の戀敵のお絹を殺す氣になつたのだよ――藁細工の熊手を使ふことを思ひついたのは、熊の膽賣りの伍助の
「成程ね」
八五郎も其處までは呑込めます。
「お絹を殺した時は、お光は喜太郎を
「恐ろしい野郎ですね」
「この時刻の喰ひ違ひと――もう一つ、前の晩に仕事着で出かけた喜太郎が、二度目に
錢形平次の明智だから、こんなに手輕に狼の