鉄片は沈んで沈んで港の底
眇の眸を覗かせるよ
ああ気なげな空想を抱いてゐるぞ
ねそべつた比目魚が吐きだす泡にぶらさがり
ゆらゆら海面に昇つてゆく鉄片の願望よ
おをい!
海上遠く、青空映す友だちよ
針魚よりも鋭い腰の短剣め!
あいつの主人はランチを飛ばして海軍大尉の美男子だ
あいつは海と空の骰子だ
あいつは燈台の横腹にさしこむ朝日の第一線にも見あきてゐよう
港外を素通りする外国汽船ののつぽな煙筒
出帆を敲く銅鑼めの得意な面つきよ
あいつの面 に照り反す海
空
太陽よ
麝香。白粉。ワキガの花粉を吹飛ばす
突堤に乱れるパラソルの花園!
輝きつゞく港街は晴天の祭日だ
帝国銀行の高楼を積上げるつみあげる
起重機の妖しい肘よ
混血児
人力車
タバコ
避電針
アンテナ
気象台
煙
鳥
雲
飛行機
飛行機の両翼を凛乎と張る細い針金よ
岬遠い避病院の塀ぎはに転つた哀しい空鑵
あ、あ、潰れた空鑵にだつて落日が光る光る
ぼくは嗅ぎたいよ
日光が嗅ぎたいよ
あつたかい鴎の糞 がたべたいよ